お礼と短編

イベントで、お差し入れを頂いたりしました。
そもそも私のスペースに来てくれるという行為自体、

体を張ったお差し入れみたいなものだというのに。
本当にありがとうございます。
ありがとう以外に何か言えないもんかと考えたけど、ない。
いつもうえーっいいんですかやっさしー?!ウェヘヘヘありがとうございやす恐縮でゲス

みたいな愛咲ルイスタイルの反応になるのすみません。見苦しい。

お礼にもならないけど、短文書きました。
貴方の下さったいいもののおかげで私はめっちゃ頑張ろうとテンションが上がりました!という気持ち。
頂いた差し入れテーマにしてここで短文書いていきますね。

 

※拙作『猫町四丁目』(青い表紙の本)の中の鴻・周(おおとり・あまね)×聖一(せいいち)
読んでないなぁという場合は『もっさり系学者×顔が綺麗で性格歪んだ人外(ヤることヤり済み)』だと思って頂ければ。

 

※元の話の都合及び主に書いてるジャンルが『人外』であるので若干不穏な表現してますが、

決して『頂いたお差し入れが怪しい』という意図では全くないことをお断りしておきます。

頂いたお菓子の入ってた入れ物が手作りで、すげえ!と思って書きました。

 

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「またかよ」
 聖一が心底厭そうな声を出して口元を歪めた。
 元が人形のような線の細い美形なだけに、歪むと実に意地の悪い面映えになる。呆れて周が肩を竦めた。
「仕方ないだろ。僕の仕事はこういうところに用があるんだから」
「たまにゃもう少し景気のいいところで働け」
「ていうか、だから留守番してろって言ったのに」
 鴻周の肩書きは一応民俗学者である。一応と言うのは周が謙遜する部分もあるにはあるが、研究書の原稿締切を破って久しいかったり、大学の招集に応じずに放浪する癖があったりと型通りでないのもまた確かだ。
 とは言え地元の猫町ではすっかり『先生』と呼ばれているし、古い冊子を提供する、という名目でこうして蔵の中の整理を依頼されたりすることも珍しくはない。
 珍しいのは周の仕事に聖一がついていく、と言い出したことで、周にしてみれば驚き半分、絶対に途中で飽きて文句言い出すから来なくていいというのが残り半分だった。何せ聖一は基本的には周のことを食事と寝床を提供する、自分の好きにしていい人間としか思っておらず、今日も本当に単なる気まぐれ、退屈していたから、もしくは気候が良かったから程度の気分でついて来ていることは明白だった。
 薄暗い蔵の中は、灯り取りの窓から入る陽光のみで照らされている。下は土間だが書庫として使えるようにと中は改造されていた。畳一枚分の小さな書斎には火鉢まで置かれ、ここに引きこもって本を読むのは楽しそうだった。 
「そこいらのものを勝手に触り回すなよ。大切なものが沢山仕舞ってあるんだから」
「価値あるお宝があるようには見えねえな」
 聖一が興味なさげに言い放つ。ただ、この性格の悪い青年の言葉には人とは異なる経年、分かりやすく言うなら長寿による裏打ちがあって、通常の人間が見れば『古いもの』であっても彼の目にはちょっと時代遅れの情報にすぎないという独特の価値観を持っているのだと、周も一応理解はしている。
「お宝探しに来たんじゃなくて資料を貰いに来たの。もう大人しくひなたぼっこでもしててよ。邪魔」
 とは言えこの綺麗な顔をした青年が、自分の仕事を手伝うつもりなどまったくないことを周は誰よりも知っているので、せめて大人しくしていて欲しいと隅っこの方へ追いやった。
 口元を手ぬぐいで覆って埃対策をして、周は古い書棚に触れていく。家主は七代から続く地主で、近くの寺の過去帳を預かっているという。同じくこの周辺に住んでいた人たちの名前を辿る為にそれらをゆっくりページを繰り、手書きの帳面を眺めた。地味な作業ながら、周にはこれが楽しい。一旦夢中になってしまうと時間の経過を忘れる。土蔵の中は静寂に満たされ、時折雀の喧嘩する声が聞こえるだけ、という長閑さに周はどんどん没頭していく。
 そう、長閑過ぎた。
「……聖一?」
 はたと顔を上げて我に返る。大人し過ぎる。蔵を開けて外に出た音もせず、文句ひとつ言ってこない。
 厭な予感がして周は手元の帳面を閉じた。蔵の中は十畳程度の広さだが、大小様々なものを収納してあり、薄暗い闇が洩れ入る外光で分断されているだけだ。聖一が身を潜めるに丁度いい場所は沢山ある。
「聖一、何してんの」 
 大人しく昼寝でもしていればいいが、何か妙な事を企んでいないとも限らない。心配になって声をかけたが返事はない。
 つい暗がりばかりを探してしまっていたが、聖一は意外なことに陽光の差し込む場所にいた。陽に当たると聖一の金髪は白く透けるように見えて、まるで水の中の生物にも見えた。
「こいつは」
 細い指が三本で『それ』を支え、陽に向けて掲げるようにゆっくりと持ち上げる。それだけで聖一の細い体はどこか禍々しい儀式のような、悪魔的な美しさを醸していた。
「中に面白いモノが入ってるぞ」
 聖一が手にしているのは、糸で編まれた小物入れだった。先が細く尖り、サーカスのテントとか遊牧民のゲルとか、そんな形をしている。経年のせいで色褪せしているが何種類かの色違いの毛糸を選って編んである。
「ああ、それ見たことある。海外の小さい妖精が騙されて封印されるってやつだ」
 周がそう言うと、聖一は怪訝そうに眉を寄せた。
「妖精? 何だそれは。こいつの名前か」
「妖精知らないの聖一? 言い方が違うのかなぁ。そういう小さい家みたいな形のものって、中に小さい妖精が入り込んで住み着いて勝手に出られなくなるんだ、って外国の本読んでるとよく出てくるんだ」
 周の言葉に、聖一の青い目が意地悪げに細まった。
「成る程な、出られねえのか」
「何で出られないのかはよくわからないけどね……って、触っちゃダメだろ聖一。大切なものだったらどうするんだ」
 その小物入れを取り上げようと周が近づく。その周の手首を突然聖一が掴み、そのまま自分のシャツの下へと導いていく。
「ちょ、何だよいきなり」
「こいつ、ここの骨が欲しいんだとよ」
 聖一の細い銅に周の手が触れる。肋骨だ、とぼんやり考えてしまってから周は慌てて首を横に振る。
「こいつ? こいつって誰。わけのわかんないこと言ってないで、ほらそれ置いて……」
 周の言葉を無視し、聖一は小物入れに向かってにやりと挑戦的な笑みを浮かべ、歌うように呟いた。
「悪いがコレは……そうやすやすくれてやるわけにゃいかねえな」
 聖一がすっかり悪ふざけの顔になっている、と気づいて周は溜息を吐いた。始末の悪いのは、指の先に触れる聖一の素肌はぞっとするほど滑らかで、つい夜の顔を思い出してしまうことだ。
 そう言えばそんな伝承を聞いた覚えもちょっとある。偽善とかワガママとか、そういう目に見えない事象を『食べて』いる妖精が居る、と。
 周の考えていることを見透かしたように、小物入れを軽く振って聖一が言った。
「腹が減ってるらしいぞ」
「駄目、駄目。あげられるものなんか何にもないだろ」
「そうでもねえ」
 聖一はグイと周に尖った鼻先を突きつける。眉を寄せて顔を逸らそうとした周を許さないとばかりに、桜色のまるで少女のような唇を押しつける。開けば毒しか吐かない唇は、どうしてか密着させると柔らかくて甘い。うっかりすると舌を這わせたくなってしまうそこから逃げようと、周は聖一の薄い肩をグイと押して力尽くで離れた。まったくもって、体のパーツだけで誘惑というのをやってのけるので聖一は性質が悪い、と残る感覚を拭うべく周は自分の唇を雑に擦った。
 聖一は相変わらず悪賢い猫の笑みを浮かべて、手にした小物入れを横目で見ながら言う。
「見ろ、こいつも興奮してるぞ。お前のエロい気分を『食いたがってる』ンだ」
「あのなあ、駄目だって言ってるだろ。大体別にエロい気分になんかなってないぞ僕」
「嘘つくな。嘘も好物か? 喜びやがってこの変態」
 もはや聖一の言葉が、自分に向けられているものなのか、その小さな入れ物の中の『何か』に向けられているのかがわからない。
「おい周、こいつ持って帰るぞ。俺の気分が乗った時に玩具にしてなぶり殺す」
「冗談じゃない。ここのなんだから、置いていきなさい」
「いいのか、そんなこと言って。これがこいつの本音だぞ」
 言って聖一は周の耳元に小物入れを近づけた。聞こえてきたのは、声ともつかぬ奇妙な音だったが、何故か周にはその意味するところがきちんと伝わってきた。
 アア食イタイココノ家族ヲチョイト偽善デ塗リカタメテパクリト食ッテシマイタイ。
「……、……」

 日暮れも近づいた頃、結局は家主に適当な言い訳をして、周は十数冊の帳面と一緒にその小物入れを引き取って帰ることにした。蔵のガラクタを周がもっと盛大に持っていってくれるのだと期待していたらしい家主は苦笑いを浮かべながらもそれを承諾した。
「……本当に大丈夫なのかな」
 その入れ物に入っている限り『それ』は悪さは出来ないということらしい……と、いうのは周自身が書物で得た知識だし、あの蔵に放置して万に一つもあそこの家主が一家全滅なんて事態になったら、と心配して引き取ってきてしまったが。
「心配すンな。いざとなりゃ俺がどうにかしてやる」
 新しい玩具を手に入れて、聖一は至極ご機嫌だった。
「絶対、面白半分に蓋開けたりするなよ」
 聖一の白い指の間で、性悪の妖精を閉じ込めた小さな館はひっそりと息を潜めているように見えた。
 

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